じゅりーの迷える日々

解離性障害とともに生きているアラサーの雑記

虐待サバイバーから、「胎内記憶」への批判

虐待の経験者として、一番許せないのがこの「胎内記憶」をいう戯言を流布する連中です。

 

ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、一応ご説明を。「胎内記憶」とは、産婦人科医の池川明氏が提唱しはじめた、「子どもは母親のお腹の中にいたときや、その母親の胎内に入るまでの過程を記憶している」という説のことです。

一般的な思考の方であれば、上記を読んで「何言ってんだこいつ」となるでしょう。

f:id:Jurie2754:20190405121746p:plain

私もそうです。周囲の誰からも「昔母親の子宮にいた頃の話なんだけど~」なんて聞いたことがないですし、私の一番古い記憶は、5歳の時にコーヒー豆の香りを嗅ごうとして、勢いよく空気を吸い込みすぎて鼻の穴に豆が詰まって取れなくなったことなので。

 

ですがこの説を信じる人、そして(失礼ながら)そのバカから金を巻き上げるために、近年「胎内記憶」ビジネスが活発になっています。

代表的な例を挙げるなら、2017年に発売された絵本作家のぶみ氏の、子どもは母親を選んで生まれてくるという主旨の『このママにきーめた!』という絵本、2018年の『かみさまは小学5年生』という、すみれちゃんという小学5年生の女の子が生まれる前に天界で見た世界について語る(という設定の)書籍など。ちなみに、どちらも版元はサンマーク出版です。

関連する講演やセミナーも開催されており、「胎内記憶」をご存知なくとも、これらを書店や広告等で見かけた方もいらっしゃるかもしれませんね。

 

そんな中、一番の問題は「胎内記憶」が実在するのかということです。

2018年7月、ロンドン大学等複数のイギリスの大学の心理学の研究者の方が共同で、「2歳未満までの記憶は、どんなに鮮明なものであっても架空で、それ以上の過去を遡ることはできない」という論文を発表しました。

この調査は7,000人弱を対象に実施されたものですので、かなり大規模といってよいと思います。英語ですが、概容だけでもここで見られるので気になる方はぜひ。

https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0956797618778831?journalCode=pssa

その調査の結果、2歳未満は記憶に関わる脳のパーツである海馬が未発達であるため長く記憶を保持できない上、またその海馬も成長の過程で記憶がシャッフルされてしまい、確実なものとして形成できないということが判りました。

つまり、「胎内記憶」と言われているものは存在せず、そのように思えるものはその子どもの誤認か勘違い、もしくは「誰か・何かに刷り込まれたもの」ということが証明されたわけです。

 

ですが、この研究結果をもってしても、「胎内記憶」が存在するという人・説を支持する人はまだ根強く存在します。

上記の池川医師(医師と呼ぶ価値もないと思いますが)や絵本作家ののぶみ氏、すみれちゃん(の黒子であろうお母様)が「胎内記憶は存在する!」と固持するのは当然分かります。彼らはそれに関連する書籍の出版やセミナー、講演会の開催でお金を稼いでいますから、食い扶持が無くなるのは困りますもんね。

ちなみに余談ですが、絵本作家ののぶみ氏は、facebookで“講演会を開催したい人”を募集しています。私の知る限りでは講演会って「この人を呼びたい」って主催者がいて、そちら側が自発的に依頼するというのが一般的だと思うのですが、講演者が主催者を募集するスタイルを採用しているのは彼が初めてでは?パイオニアですね。

また、彼は自称する過去の経歴に様々な詐称があることが指摘されています。こちらは私以上に詳細にまとめた方のブログ等がありますので、「のぶみ 経歴」でぜひ検索してみてください。

 

それはさておき、この体内記憶に影響を受けてかわいそうだと思うのは、そんな風説を信じる母親たちです。つらい子育ての中、何かにすがりたくなる気持ちは分からないでもありません。現実を必死に受け入れようとして、「この子は私を選んで生まれてきてくれたのだから」と納得したいのかもしれません。育児の大変さについては、未婚で子どものいない私には想像もつかない世界なので、彼女たちの心境についてこれ以上の言及は避けます。

ただ、その根拠のない風説を聞くための講演会に参加するなら、家で一緒に絵本を読んだり、動物園や公園に出かけたらいいのに、と思います。だって、講演会に連れて行かれる子どもたちは、知らないおっさんが「母親たちに向けて」洗脳のメッセージを垂れ流してるのを聞いてるだけでしょう?そこに親子のつながりがありますか?同じ講演会だとしても、「おかあさんといっしょ」のコンサートのように、笑顔のお子さんとそんなわが子を見つめて幸せそうな母親、という画はそこに存在していないはずです。母親が見つめているのは、自分の耳に心地よい言葉をかけてくれる講演者でしょう。

講演会やセミナーに参加するお金と時間を、ちゃんと医学的・もしくは教育的に「子どもの成長に良い」と実証されている別の何かに使うという選択肢はないのか、と感じてしまいます。

 

そして、そんな健気な母親を騙していること以上に、私がこの「胎内記憶」の存在を許せないのは、つらい環境にいる子どもたちにその環境での我慢を強いるからです。親から殴られたり、罵倒されたりして日々を過ごす子が、「子どもは親を選んで生まれてくるのよ」なんて聞かされたらどう感じるでしょうか。

昨年、自称心理カウンセラーの心屋仁之助氏が、ブログのコメント欄に「どうしても子どもを叩いてしまう」と書いた女性に対し、「あなたの子どもは叩かれるために生まれてきたのよ」と虐待を容認するような返信をし、ネットで炎上したことがありました。これも「子どもは親を選んで生まれる」発想に通じるところがありますよね。

私は22歳まで親から殴られて育ち、20代半ばだった2年ほど前に初めて「胎内記憶」に触れましたが、ありえないと理解していても心底不快な気分になりました。虐待がいちばん激しかった頃に「叩かれるために生まれてきた」なんて言われてたら、間違いなく自殺していました。「ああ、私はこうなるように生まれたのか。じゃあもう終わりでいいや」って考えたはずです。

 

「胎内記憶」も「叩かれるために生まれてきた」も、共通するのはその対象であろう子どもをメインに考えていないということです。

メインターゲットは、子育てに不安を抱えて助けを求める母親、暴力をやめられない母親。そんな弱った相手に、深層心理で欲しているような甘い言葉をかけて、その実は新規の顧客獲得と信者たちからお金を巻き上げることしか考えていない。

こんな悪質な商売をする人間が講演会をしたり、本を出版していたり、そもそも医師や作家であるという現実に恐ろしさで鳥肌が立ちます。

 

虐待の被害者として、またひとりのモラルある一般人として、そんな悪どい連中の商売道具にされる子どもたちと心酔する母親たち、所謂「信者ビジネス」の餌食になる親子が少しでも減っていくことを心から望みます。

ただ、この記事を見て、もしまだ「胎内記憶はある!」「子どもは親を選んで生まれてくる!」と仰りたい信者の方がいらっしゃいましたら、徹底的に討論させていただきたいのでコメントください。Twitter(@aaa20201516)への返信でも構いません。お待ちしております。

 

求ム

・胎内記憶のある方、またはその存在を信じる方

・池川明氏、心屋仁之助氏、のぶみ氏、すみれちゃん(のお母様)の信者の方

・池川明氏、心屋仁之助氏、のぶみ氏、すみれちゃん(のお母様)ご本人